新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは))』観てきました。
先週友達と飲んでて刀剣乱舞の歌舞伎評判いいらしいじゃん~土曜日ならチケットまだあるじゃん~行くか! で行ってきたわけですがまーめちゃくちゃ面白かったです。
そもそも行ったことない劇場に行くの楽しい。歌舞伎を観るのも初めてなので楽しい。劇場でのお弁当とおやつも帰りのごはんもおいしくて楽しかった。遠足でした。
で本編の話なんですけど、前述の通り歌舞伎は初体験でして、イヤホンガイドを借りました。能には行ったことがあって、慣れていないと古語様式の台詞や言い回し(テンポが独特、スロー)で引っかかって話が入ってこないので、あらすじを事前に配布したりしてその辺のフォローがされています。歌舞伎はどうなのかなと思ったら本演目ではイヤホンガイドによる音声の解説が本編中にも流れるとのこと。
結果としてイヤホンガイド大活躍でした。そもそものところ、歌舞伎、めちゃくちゃ「お約束」がいっぱいあるんですよね。伝統芸能だいたいそうですけど、時間を重ねて続けてきた分だけ、演出演技の「型」がある。これを知らないで見ると、まったくとまでは言わないけれど7割くらい読み取れなさそうなところをイヤホンガイドが全部カバーしてくれる。
たとえば台詞やナレーション代わりの謡の補足、特定のシーンを示す音楽や規定の効果音(「つけ師」と呼ばれる人が舞台端で足音や剣戟など一通りの音を木を打って出す)の意味、時代背景に合わせた単語の意味、登場人物の衣装から役回りが察せられる解題の仕方、ここらへん全部ルールで型。洗練されてきたお約束のかたまりと言えましょう。
教養というのは触れてきた文化の積み重ねでこういう長い歴史を持つものを解題できるくらい所与の知識として自分の中に持っていることだなとは思うんですけどまあそんな触れやすい界隈のものでなし、無教養マンなので私にとってはイヤホンガイドはここらへんを本編に重ねて分かりやすく解説してくれる、めちゃくちゃいいサポートでした。
ただし当然ながら音声が二重になるので若干聖徳太子気味になります。もちろんいいシーンなどは空気を読んで(?)解説がなかったりしますが、音声の流れ方としては同時通訳みたいな感じかな。
しかしこのサポートによって、話の本筋に没入しやすくなったのがとてもよかったです。最初はガイドに耳を傾けて読み取っていたキャラクターの心情や話の流れが、幕間後には十分舞台上だけで理解できるようになり、最後のシーン、お互いの使命とその哀しみを受け入れあって義満と三日月が戦う場面ではイヤホンガイドを切りました(喋ってなかったと思うけど)。補助輪外してラストシーンが観られて良かったなと思います。
なんかこう……お約束や型が分かってやっと筋に集中しはじめると舞台上の見え方が変わって、最初はいかにも歌舞伎のメイクだ! て感覚だったどの刀剣男士も登場人物もとてつもなく「らしく」カッコよく見えてくるんですよね。面白い感覚だった。高坂弾正一家めちゃくちゃよかった。
———ここで感想おわり。以後歌舞伎の話ではない———
なんていうか、そんだけ初見無教養マン(一人称)に補助が必要なくらいのお約束って何のために成立しているかといえば、情報圧縮のためなんですよね。いちいち説明せんでも音の種類で、曲で、着物の色で、隈取の文様で、どういうものかという意味を場に見せる。その分筋や演技に集中できる、っていうバフなんですよ。でもこれが、知らない人にはハードルになる。ちょっと前にTwitterで「あらゆる文化は身内ネタ」って話を見て、えーと
これ。いや「内輪受け」ですね。身内ネタ、近いか。
まあとにかく、そう、わかる人のための情報圧縮、暗号、そんなもんがバフになるときそれは芸術の型みたいなものであり、障壁になるならそれは内輪受け、身内ネタになるんだろうなと。
身内ネタが楽しい、という感覚はそこそこ人によって覚えがあると思うんだけど、それが「多量の情報を圧縮したハイコンテクスト処理」に紐づく快なのか、「自分たちだけが分かってる共通テクストによる共犯関係」、言っちまえば選民意識に紐づく快なのか、まあそんなはっきり分かたれず混ざってそうですけど、どっちに振ってるかによって、そのネタが分かんない人の「うわ……」感て変わるよなと思いました。単に外に対する目くばせができているかどうかって話かもしれない。
私は「わかる人にはわかる」みたいなものが大体わからんタイプなのでこれは私怨です。あと刀剣乱舞歌舞伎めちゃくちゃ面白かったです。